
どんなに素晴らしい資源(リソース)があっても、それを使って具体的な「行動」を起こさなければ、価値は生まれません。
キーリソースをどのように活用し、価値提案(VP)を実際に生み出し、顧客に届け、関係を維持し、収益を上げるために、「絶対にやらなければならない、最も重要な活動は何か?」を見極めていきましょう。
皆さんこんにちは!事業構想×生成AI活用アドバイザー(中小企業診断士)の津田です。
前回(第9回)は、ビジネスモデルキャンバス(BMC)の「舞台裏」、価値創造のエンジンルームの最初の要素である「キーリソース(KR)」について考えました。
あなたのビジネスを支える、代替がきかない、競争力の源泉となる「不可欠な戦略的資産」は見えてきましたでしょうか?
そこで今回は、BMCの舞台裏、2つ目の要素である「キーアクティビティ(Key Activities: KA)」に焦点を当てます。
これが、あなたのビジネスの『実行力』の核心です。
目次
1. なぜキーアクティビティ(KA)を考えるのか?
日々の業務は多岐にわたりますが、その全てが同じように重要というわけではありません。
KAを特定し、意識することには、前回挙げた3つの核心的理由(①VP実現と競争優位、②運営効率化と資源集中、③持続可能性と未来への備え)が、活動の側面から見ても当てはまります。
■価値提案(VP)の実現に直結
KAは、顧客への約束であるVPを具体的に形にするための活動です。KAの質がVPの質を決めると言っても過言ではありません。
■競争優位性の構築
他社が真似できない、あるいは非効率なやり方しかできない活動を、自社が卓越したレベルで実行できれば、それが強力な競争優位性となります。
KAの設計と実行が差別化の鍵です。
■効率性とコスト管理
どの活動が「キー」であるかを理解することで、そこにリソース(特に人材や時間)を集中させ、重要でない活動への浪費を防ぐことができます。
これはコスト構造(CS)にも直結します。
■オペレーションの基盤
KAを明確にすることは、日々の業務プロセスを設計し、改善していく上での基礎となります。
つまり、KAを考えることは、単に「やることリスト」を作るのではなく、「価値を生み出すために、戦略的に何に集中し、どう実行するか」という、事業運営の『要諦』を設計することなのです。
2. キーアクティビティ (KA) – 価値提案を実現する『最重要活動』は何か?
主要な活動とはビジネスモデルが競争優位を築き、顧客に独自の価値を提供するために、戦略的に行うべき中核的な活動です。つまり、ビジネスの成功を左右する最も重要な活動 を特定し、それに集中することが競争力の強化につなます。
キーアクティビティの洗い出しイメージ
カフェ「Third Place」(VP: 心地よい第3の居場所)のキーアクティビティ候補として考えられる具体的な活動例
空間演出活動
・「心地よい空間」というVPを維持・進化させるための、継続的な店内レイアウトやインテリアの見直し・改善活動
・季節感やコンセプトに合わせた装飾やディスプレイの企画・実行活動
・場の雰囲気を決定づけるBGMの選定・管理活動
コミュニティ形成活動(もし重視する場合)
・常連客同士やスタッフとの交流を自然に促すイベント(例:コーヒーセミナー、読書会)の企画・運営活動
・お店のファンとの繋がりを深めるオンラインコミュニティ(SNSグループなど)の管理・活性化活動
店舗運営活動(効率性も考慮する場合)
・顧客を待たせず、ストレスなく過ごしてもらうためのスムーズな注文・会計・提供プロセスの設計・改善活動
・欠品を防ぎ、常に新鮮なものを提供するための効果的な在庫管理や発注活動
マーケティング・情報発信活動
・お店のコンセプト、こだわり、世界観を潜在顧客に伝え、共感を呼ぶためのSNSやブログ等での継続的な情報発信活動
・顧客の興味を引く新メニューや限定企画の開発・告知活動。
『キー』の見極め方とは?
日々の活動の中から「キー」となる活動を特定し、絞り込むために、以下のステップで考えてみましょう。
ステップA:候補となる活動を洗い出す『視点』
まず、キーとなり得る活動の候補を、様々な角度から洗い出してみましょう。以下のような視点がヒントになります。(全てに当てはめる必要はありません)
■価値提案(VP)起点
あなたのVP(顧客への約束)を実現するために、絶対にやらなければならない活動は?
(例:高品質な製品製造、顧客一人ひとりへの個別カウンセリング、迅速な商品発送、独自コンテンツの制作)
■事業プロセス(Value Chain)起点
商品開発から製造/提供、販売、サポートといった一連の流れの中で、顧客にとっての価値を特に生み出している活動や、事業全体の成果に繋がる重要な活動は何か?
(例:顧客ニーズを捉えた商品・サービスの企画開発活動、独自の技術やノウハウを活かした高品質な製造・サービス提供プロセス、ブランド価値を効果的に伝えるマーケティング・広報活動、顧客満足度を高める手厚いアフターサポート体制の構築・運営)
■競争戦略(Value Disciplines/KSF)起点
あなたが業界で勝つための鍵(KSF)や、目指す戦略的ポジション(例:効率性No.1、顧客満足度No.1、製品革新性No.1※)を実現するために、特に重要な活動は?(例:徹底したコスト削減活動、継続的な新製品の研究開発、顧客データ分析に基づく関係構築活動、ブランドイメージ向上のためのPR活動)
■チャネル(CH)・顧客関係(CR)起点
重要な販売チャネルの運営や、顧客との関係維持のために欠かせない活動は?(例:ECサイトの運営・改善、SNSでの積極的な情報発信・交流、顧客コミュニティの企画・運営、CRMを活用した顧客管理)
■自社の強み(Strengths)起点
第2回で考えた自社の「幹」となる能力を発揮するための活動は?(例:独自の技術を活かした研究開発、高い接客スキルを活かした店舗運営、豊富な知識を活かしたセミナー開催)
※補足 3つの価値基準
経営戦略論で有名なトレーシー&ウィアセーマが提唱した、市場リーダーの競争戦略の型です。
①業務の卓越性(オペレーション・エクセレンス)は最高の効率性(低価格・速さ・便利さ)
②顧客親密性(カスタマー・インティマシー)は特定顧客との深い関係性と最適解の提供
③製品リーダーシップ(プロダクト・リーダーシップ)は最高の製品・サービスの継続的な提供
上記それぞれを追求する戦略を指します。通常、企業はどれか1つで業界最高を目指します。
自社がどの基準で競争優位を築こうとしているかを明確にすることで、注力すべき主要活動(KA)を特定する重要な手がかりとなります。
ステップB:『キー』かどうかを判断する(シンプルな3つの問いかけ)
ステップAで洗い出した活動候補について、以下の問いで「本当にキーか?」を絞り込みます。
問いかけ①: それは『価値提案』の実現に不可欠か?
「この活動は、顧客への一番の約束である価値提案(VP)を実際に『生み出し』『届け』『支える』上で、どれほど中心的・本質的な役割を担っていますか?」
「もしこの活動がうまく機能しなかったり、質が低かったりした場合、顧客が受け取る価値は大幅に損なわれてしまいますか?」
(→ この活動が、単なる補助業務ではなく、価値創造・提供プロセスの核心にあるかどうかを見極めます。)
問いかけ②: それは『自社の強み・差別化』に繋がるか?
「この活動は、顧客が他社ではなく『ウチ』を選んでくれる理由(競争優位性)の源泉となっていますか?」
「自社ならではの『らしさ』や『得意なこと』(キーリソース)を活かす活動ですか?」
「他社が簡単に真似できないやり方ですか?」
問いかけ③: それは『効率的』で『持続可能』か?
「この活動を実行し続けることは、コストやリスクの面で現実的ですか? もっと効率化できませんか?」
「外部環境の変化(競合、技術、市場)があっても、続けられる活動ですか?」
【考え方のヒント】
ここでも、特に①と②の両方を満たす活動が、最重要の「キー」アクティビティ候補となります。
【事例で考える『キー』アクティビティ候補】
ステップAの視点から候補を出し、ステップBの問いで評価するプロセスを見てみましょう。
事例1:カフェ「Third Place」
視点例:事業プロセス起点
VP: 「自宅でも職場でもない、心地よい第3の居場所」を提供するカフェ
顧客に価値を提供する流れの中で重要な活動は?
→ 候補:「高品質なドリンク調理・提供活動」
<判断(3つの問い)>
① VPに不可欠か?:Yes(VPの重要な要素「美味しいコーヒー」に直結)
② 強み・差別化か?:Yes(キーリソースであるバリスタのスキルを活かし、他店との味の差を生む)
③ 現実的・持続可能か?:Yes(カフェの日常業務として必須だが、品質維持の努力は必要)
→ 結論:キーアクティビティの有力候補です。
視点例:価値提案(VP)起点
VP「心地よい第3の居場所」を実現するために不可欠な活動は?
→ 候補:「心地よい空間の維持・演出活動」
<判断(3つの問い)>
① VPに不可欠か?:Yes(VPの核心であり、空間が損なわれれば価値がなくなる)
② 強み・差別化か?:Yes(独自のセンスやこだわりで、他にはない雰囲気を出せれば強力な差別化)
③ 現実的・持続可能か?:Yes(清掃、BGM選定、設えなど、日々の地道な努力が必要)
→ 結論:こちらもキーアクティビティの有力候補です。
事例2:パーソナル・トレーナー
視点例:価値提案(VP)起点
VP: 「科学的根拠に基づき、目標達成に寄り添うマンツーマン指導」を提供するパーソナルトレーナー
このVPを実現するために絶対にやらなければならない活動は?
→ 候補:「個別カウンセリングと目標設定、それに基づくトレーニングメニューの作成と指導活動」
<判断(3つの問い)>
① VPに不可欠か?:Yes(まさに価値提案そのものを実行する活動)
② 強み・差別化か?:Yes(キーリソースであるトレーナーの専門性・個別対応力が直接発揮される)
③ 現実的・持続可能か?:Yes(トレーナー自身の時間と能力が上限だが、ビジネスの根幹)
→ 結論:最重要のキーアクティビティと言えるでしょう。
事例3:手作り石鹸メーカー
視点例:自社の強み起点
VP: 「天然素材の、肌に優しく心も満たす手作り石鹸」の製造販売
強み「独自レシピ・製法(KR)」を活かす活動は?
→ 候補:「独自レシピに基づく精密な調合・攪拌(かくはん)プロセス」
<判断(3つの問い)>
① VPに不可欠か?:Yes(製品の品質と独自性を生み出す核心工程)
② 強み・差別化か?:Yes(キーリソースであるレシピ・製法を価値に変える活動)
③ 現実的・持続可能か?:Yes(ただし、再現性と品質管理の仕組みが必要)
→ 結論:キーアクティビティの有力候補です。
視点例:事業プロセス(Value Chain)起点
高品質な製品を確実に顧客に届ける上で重要な活動は?
→ 候補:「品質基準に基づく厳格な検品活動」
<判断(3つの問い)>
① VPに不可欠か?:Yes(「肌への優しさ」などVPの品質を担保する)
② 強み・差別化か?:△〜Yes(徹底すれば「信頼」という差別化に繋がる)
③ 現実的・持続可能か?:Yes(コストはかかるが、品質維持に不可欠)
→ 結論:品質を重視するならキーアクティビティ候補です。
【AI活用ヒント】
「私の手作り石鹸事業の活動リスト[リスト]について、3つの問いかけ(不可欠性、強み・差別化、効率性・持続可能性)に基づき、どれがキーアクティビティと言えそうか、理由と共に教えてください。」
とAIに問いかけ、客観的な意見を求める。
3. キーアクティビティ(KA)と他のBMCブロックとの連携
特定したキーアクティビティは、他のBMCブロックとどのように連携しているでしょうか? ここでも繋がりを見ていきましょう。
■キーリソース(KR)との連携
KAは多くの場合、特定のKRを活用して行われます。優れた人材(KR)がいて初めて高度な問題解決(KA)ができますし、特殊な設備(KR)がなければ独自の製造(KA)はできません。KRとKAは表裏一体の関係です。
■価値提案(VP)との連携
KAは、VPを具体的に生み出し、提供するための実行プロセスそのものです。KAの質がVPの質を決定づけます。
■チャネル(CH)・顧客との関係(CR)との連携
効果的なチャネル運営(例:ECサイトの維持管理、店舗運営)や、顧客との関係構築・維持(例:CRM活動、コミュニティ運営)といった活動も、ビジネスモデルによっては重要なKAとなり得ます。
■キーパートナー(KP)との連携(次回解説)
自社で行うには非効率、あるいは専門性が足りないKAは、キーパートナーに委託したり、共同で行ったりすることがあります。どの活動を自社で行い(KA)、どれを外部と連携するか(KP)の判断は重要です。
■収益の流れ(RS)との連携
効率的で効果的なKAは、顧客満足度を高め、リピート購入や口コミを生み出し、結果として安定した収益の流れに繋がります。
■コスト構造(CS)との連携(最終回テーマ候補)
KAは、KRと並んでコストが発生する主要な要因です。活動には人件費、原材料費、外注費などがかかります。KAの効率性がコスト構造を大きく左右します。
キーアクティビティを考える際は、このように他のブロックとの繋がりを意識し、「この活動は、本当に価値提案の実現とビジネスモデル全体の機能にとって重要か?」と問い続けることが大切です。
4. Miraiz とキーアクティビティの特定・最適化支援
「自社の活動の中で、どれが本当に『キー』なのか分からない…」 「もっと効率的な活動の仕方はないだろうか?」 「価値提案を実現するための最適なプロセスを設計したい…」
Miraizでは、クライアント様のビジネスにおけるキーアクティビティの特定と最適化を支援します。
- 活動の棚卸しと評価: 対話を通じて、現在行っている活動、あるいはこれから必要となる活動を洗い出し、それが価値提案や競争戦略にどれだけ貢献しているかを、客観的な視点と3つの問いかけ(不可欠性、強み・差別化、効率性・持続可能性)を用いて評価します。
- プロセスの可視化と改善提案: 特定されたキーアクティビティについて、その実行プロセスを可視化し、AIなども活用しながら、非効率な点や改善の可能性を探ります。より少ないリソースで、より高い価値を生み出すための活動設計をサポートします。
- BMC全体との整合性確保: 設計したキーアクティビティが、キーリソース、キーパートナー、コスト構造など、ビジネスモデルの他の要素と整合性が取れ、無理なく実行可能かを確認します。
私たちは、クライアント様が自社の強みを最大限に活かし、価値創造の核心となる活動に集中できるよう、伴走者としてサポートします。
5. まとめと次回(第11回)予告
今回は、価値創造の「舞台裏」の2つ目の要素、キーアクティビティ(KA)について、その重要性、そして自社にとって『キー(最重要)』となる活動を見極めるための実践的な考え方(候補を洗い出す視点と3つの問いかけ)を、事例を交えながら探求しました。
あなたのビジネスを動かす、最も重要な「活動」は何でしょうか? それは価値提案に不可欠で、あなたの強みを活かし、持続可能なものでしょうか? ぜひ、BMCのKAブロックを埋めてみてください。
さて、価値創造のエンジンルーム、残るは最後の要素です。自社だけではできないことを補い、ビジネスを加速させてくれる「仲間」の存在です。
次回、【第11回】では、「キーパートナー(Key Partners: KP)」について解説します。ビジネスの成功のために、誰と、なぜ、どのように協力するのか? 戦略的なパートナーシップの築き方を探っていきましょう。