どうやって、その価値を顧客に届けますか?

どうやって、顧客との良い関係を築きますか?

どうやって、その活動から収益を上げ、事業を継続させますか?

そのために、どんな資源や活動、仲間が必要で、どれくらいのコストがかかるのでしょうか?

皆さん、こんにちは!事業構想×生成AI活用アドバイザー(中小企業診断士)の津田です。

前回(第4回)では、あなた(自社)の「強み」「顧客のジョブ(悩み・望み)」を結びつけ、顧客の心に響く『価値提案』、つまり、あなたのビジネスが顧客に提供する「約束」を創り上げましたね。

これで、あなたの事業が進むべき方向を照らす「灯台」ができました!

しかし、灯台の光が見えても、そこにたどり着くための「船」の設計図がなければ、航海には出られません。

こうした、事業を実際に動かしていくための「仕組み=ビジネスモデル」を具体的に考え、全体像を把握する必要があります。

そこで登場するのが、今回の主役『ビジネスモデルキャンバス(Business Model Canvas: BMC)』です!

「また新しいフレームワーク?」と身構えないでください。ビジネスモデルキャンバスは、あなたの素晴らしいアイデアを、地に足のついた「稼ぐ仕組み」へと落とし込むための、驚くほどシンプルで強力な「思考ツール」であり、「事業の設計図」です。

今回は、このビジネスモデルキャンバスを使いこなし、あなたの事業構想の解像度を一気に上げる方法を探求していきましょう!

ビジネスモデルキャンバス(BMC)とは、スイスの経営学者アレックス・オスターワルダー氏らが提唱した、事業の構造を9つの基本的な要素(ブロック)に分解し、それらを1枚のシート上で可視化するフレームワークです。

事業構想の言語化・可視化支援サービス”Miraiz”の出力例

まるで、家を建てる前に設計図を描くように、事業全体の構造、つまり「誰に」「何を」「どのように」提供し、「どうやって収益を上げ」「そのために何が必要か」というビジネスの骨格を、一目で理解できるようにするツールです。

では、なぜこの「設計図」を描くことが重要なのでしょうか?

■全体像が一目でわかる!

事業の各要素がバラバラではなく、互いにどう関連し合っているのか、その繋がりと全体像を直感的に把握できます。

■思考が整理される!

漠然としていたアイデアを、9つのブロックに当てはめて考えることで、具体的に何を検討すべきかが明確になり、思考が整理されます。

■共通言語になる!

チームメンバーや協力会社、投資家など、関係者と事業について議論する際に、同じ「地図」を見ながら話せるため、認識のズレを防ぎ、建設的な対話を生み出します。

■アイデアを検証できる!

各ブロックを埋めていく中で、「この価値提案を実現するには、このリソースが足りないな」「この収益モデルだと、コスト構造と合わないかも」といった、アイデアの矛盾点や弱点、実現可能性を早期に発見できます。

■変化に強くなる!

市場の変化や仮説検証の結果に応じて、どの部分を修正すれば良いか(ピボット)を検討しやすくなります。

ビジネスモデルキャンバスは、単なるお絵描きではありません。あなたのビジネスアイデアを成功に導くための、戦略的な思考ツールなのです。

さあ、いよいよBMCの9つのブロックを一つずつ見ていきましょう。難しく考えず、これまでの旅(第1回~第4回)で考えてきたことを思い出しながら、あなたの事業アイデアを当てはめてみてください。

【顧客に関わる右側エリア】

あなたは、誰のために価値を創造しますか? 最も重要な顧客は誰ですか?

 第3回で考えたターゲット顧客ペルソナをここに書き出します。マス市場なのか、ニッチ市場なのか、複数のセグメントがあるのか? 具体的に定義しましょう。ここが曖昧だと、他の全てのブロックがぼやけてしまいます。

あなたは、顧客のどんな問題を解決し、どんなニーズを満たしますか? 顧客セグメントごとに、どのような価値を提供しますか?

第4回で磨き上げた価値提案をここに記入します。顧客の「ペイン」をどう解消し、「ゲイン」をどう創出するのか? 競合との違いは何か?

これがあなたの事業の「核」であり、「選ばれる理由」です。

あなたは、どのように顧客セグメントに価値提案を届け、コミュニケーションをとりますか? 顧客はどこであなたの商品・サービスを知り、評価し、購入し、サポートを受けますか?

認知(広報・広告)、評価(試用・レビュー)、購入(店舗・Webサイト)、提供(物流・ダウンロード)、アフターサービス(サポート)といった顧客接点の具体的な手段を考えます。オンライン? オフライン? パートナー経由?

顧客セグメントに合った、効果的で効率的なチャネルを選びましょう。

あなたは、顧客セグメントごとに、どのような関係を築き、維持しますか?

新規顧客獲得を重視するのか、既存顧客の維持・育成に力を入れるのか? 対面での手厚いサポート? セルフサービス? コミュニティ運営? 自動化?

価値提案や顧客セグメントの特性に合わせて、適切な関係性のタイプを選びます。これはコストにも影響します。

あなたは、価値提案から、どのように収益を得ますか? 顧客は何に対して、いくら支払う意思がありますか?

商品販売、利用料、サブスクリプション、ライセンス、広告収入など、具体的な収益モデルを考えます。価格設定の戦略(固定価格? 変動価格?)も重要です。

顧客が「価値」を感じて喜んで支払ってくれる価格設定と、持続可能な収益構造を目指しましょう。

【事業の内部に関わる左側エリア】

あなたの価値提案を実現し、ビジネスモデルを機能させるために、最も重要な「資産」は何ですか?

物的資源(設備、店舗)、知的資源(ブランド、特許、ノウハウ、顧客データ)、人的資源(従業員のスキル、専門知識)、財務資源(資金、信用枠)などを洗い出します。第2回で見つけた「強みの元」の多くは、ここに該当する可能性があります。

これがないと事業が成り立たない、競争優位の源泉となるリソースを特定します。

あなたの価値提案を実現し、ビジネスモデルを機能させるために、最も重要な「活動」は何ですか?

製造、問題解決(コンサルティングなど)、プラットフォーム/ネットワーク運営(マッチング、システム開発・維持)、マーケティング、研究開発など、事業の核となる活動を特定します。これも、第2回の「強みの元」を活かす活動と深く関連します。

価値提案、チャネル、顧客との関係を維持するために不可欠な活動に焦点を当てます。

ビジネスモデルを機能させるために、誰と協力する必要がありますか? 主要なサプライヤー、パートナーは誰ですか?

リスク軽減、リソースの獲得、特定の活動のアウトソーシングなどを目的に、社外の組織や個人と連携します。仕入先、製造委託先、販売代理店、技術提携先などが考えられます。

自社だけではできないことを補完し、ビジネスモデルを強化してくれるパートナーシップを考えます。

ビジネスモデルを運営するために発生する、最も重要なコストは何ですか?

キーリソース、キーアクティビティ、キーパートナーに関連して発生するコストを洗い出します。固定費(家賃、人件費など)、変動費(原材料費など)に分け、特に大きな割合を占めるコスト(コストドライバー)を把握します。

コスト削減を重視するのか(コスト主導型)、価値創造を重視するのか(価値主導型)によって、コスト構造の考え方が変わります。収益の流れとのバランスが重要です。

さあ、どうでしょうか? 9つのブロックを眺めながら、あなたの事業アイデアをこれらの問いに当てはめていくと、ぼんやりしていた全体像が、少しずつクリアになってきませんか?

BMCの各ブロックを個別に埋めるだけでも思考は整理されますが、このツールの真価は、9つの要素が互いにどう影響し合っているのか、その『繋がり』を1枚のシートで俯瞰できる点にあります。

例えば…

  • 新しい「価値提案(VP)」を考えたら、それを実現するための「キーリソース(KR)」や「キーアクティビティ(KA)」は何か? それに伴う「コスト構造(CS)」はどう変化するか?
  • 「顧客セグメント(CS)」を変えるなら、「チャネル(CH)」や「顧客との関係(CR)」も変える必要はないか?
  • 「キーパートナー(KP)」と連携することで、「キーリソース(KR)」を補強したり、「コスト構造(CS)」を改善したりできないか?
  • 設定した「収益の流れ(RS)」は、本当に「価値提案(VP)」に見合っており、「コスト構造(CS)」をカバーできるのか?

このように、BMC上で要素間の繋がりを意識的に見ることで、

  • アイデアの整合性チェック: 各要素が矛盾なく連携しているか?
  • ボトルネックの発見: 事業のどこが弱点になりそうか?
  • 強化ポイントの特定: どこにリソースを集中すべきか?
  • 新たな可能性の発見: 要素の組み合わせを変えることで、新しいビジネスモデルが生まれないか?

といった、より深い洞察を得ることができるのです。まさに、点と点を線でつなぎ、事業という「システム」全体を理解するための強力なツールと言えるでしょう。

「9つのブロック、考えることが多くて大変そう…」 「自分のアイデアが、本当にこれで良いのか客観的な意見が欲しい…」

そんな時も、生成AIはあなたの頼れる相棒です! BMC作成のプロセスを、AIは様々な形でサポートしてくれます。

活用法①:各ブロックを埋めるためのヒントやアイデアをもらう

特定のブロックについて、何を考えれば良いか、どんな選択肢があるか、AIに質問してみましょう。

プロンプト例:キーリソースのアイデア出し

活用法②:要素間の整合性や実現可能性をチェックしてもらう

BMCに書き出した要素間の繋がりについて、AIに客観的な視点から問いかけてもらい、矛盾点や検討漏れがないかチェックしましょう。

プロンプト例:価値提案とチャネルの整合性チェック

活用法③:ビジネスモデルの代替案を検討する

現在のアイデアに行き詰まりを感じた時、AIに異なるアプローチや新しい可能性を提案してもらい、思考の幅を広げましょう。

プロンプト例:代替収益モデルの提案

AIを思考のパートナーとして活用することで、BMC作成のプロセスを効率化し、より多角的で実現可能性の高いビジネスモデルを構築することができます。

重要なことなので繰り返しますが、BMCは一度描いたら完成、というものではありません。むしろ、事業の成長や市場の変化に合わせて、常に更新し、進化させていく『生きた地図』として捉えることが大切です。

■仮説検証のツールとして

BMCに描かれた内容は、最初は多くの「仮説」を含んでいます。「この価値提案は本当に顧客に響くか?」「このチャネルで本当にリーチできるか?」などを実際に試し(MVP: Minimum Viable Product など)、結果をBMCにフィードバックして修正していきます。

■チームの共通認識ツールとして

定期的にチームでBMCを見直し、現状のビジネスモデルについて議論することで、認識を合わせ、次の一手を共に考えることができます。

■ピボット(方向転換)の検討ツールとして

事業が思うように進まない時、BMCのどこに問題があるのかを分析し、大胆な方向転換を検討する際にも役立ちます。

BMCを常にアップデートし続けることで、あなたの事業は変化に柔軟に対応し、持続的な成長を遂げることができるでしょう。

「BMCの考え方は分かったけど、実際に自分の事業に落とし込むのが難しい…」 

「各ブロックの繋がりを深く考え、実現可能性を高めたい!」 

「AIの使い方も含めて、専門家と一緒に全体像を可視化したい!」

私たちは、まさにこのビジネスモデルキャンバス(BMC)を用いた事業構想の可視化を得意としています。

■専門家(私)によるファシリテーション

9つのブロックについて、一つひとつ丁寧に問いを投げかけ、あなたの思考を深掘りします。要素間の繋がりや見落としがちなポイントを指摘し、議論を活性化させます。

■AIによる客観分析と多角的視点

あなたのアイデアやヒアリング内容をAIが分析し、各ブロックの選択肢や、要素間の整合性、市場での可能性などを客観的なデータや事例に基づいて提示します。これにより、思い込みを防ぎ、より強固なビジネスモデルを構築します。

■『未来図』としての統合的可視化

単にBMCを埋めるだけでなく、そこに至るまでの「強み」「顧客理解」「価値提案」のプロセスと統合し、あなたの事業全体のストーリーが明確になるような『未来図』として、分かりやすく可視化・言語化します。

Miraizは、あなたのアイデアを、単なる思いつきで終わらせず、実行可能で、かつ持続的に「稼ぐ仕組み」としてのビジネスモデルへと昇華させるための、強力な伴走者です。

今回は、事業の全体像を描く設計図「ビジネスモデルキャンバス(BMC)」について、その構成要素、使い方、そしてAI活用のヒントまで、詳しく探求してきました。

BMCを描くことで、あなたの事業アイデアは、

  • 全体像が明確になり、
  • 各要素の繋がりが見え、
  • 具体的な『稼ぐ仕組み』として、

その輪郭を現し始めたのではないでしょうか?

この設計図は、今後の具体的な行動計画を立てる上での、確かな土台となります。

さて、自分たちの船の設計図が見えてきたところで、次に気になるのは周りの海域、つまり「競合」の存在ですよね。

次回、【第6回】「競合を恐れない:違いを明確にして選ばれる理由を作る」では、BMCで描いたあなたのユニークなビジネスモデルを、競合と比較してどう捉え、その「違い」をさらに磨き上げ、顧客から「選ばれる」ための戦略を考えていきます。

今回作成した「ビジネスモデルキャンバス」という名の設計図を手に、ぜひ次回もご参加ください!

Empowering Your Vision, Building the Future.

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