どんなに素晴らしいリソース(KR)を持ち、優れた活動(KA)を行っていても、現代のビジネス環境において、全てを自社だけで完結させるのは非常に困難であり、多くの場合、非効率です。

むしろ、外部の力(パートナー)をうまく活用することが、ビジネスを成功させ、加速させるための鍵となります。

皆さんこんにちは!事業構想×生成AI活用アドバイザー(中小企業診断士)の津田です。

未来を描く羅針盤を手に入れる旅、第11回です。

全12回(予定)のこのシリーズ、BMC(ビジネスモデルキャンバス)の主要ブロック解説も、いよいよ大詰めが近づいてきました。

前回(第10回)は、ビジネスモデルの「舞台裏」、価値創造のエンジンルームの2つ目の要素である「キーアクティビティ(KA)」について考えました。

価値提案(VP)を実現するために、自社が「絶対にやらなければならない、最も重要な活動」は見えてきましたでしょうか?

さて、今回はBMC左側の最後のブロック、「キーパートナー(Key Partners: KP)」に焦点を当てます。

今回は、「誰と」「なぜ」「どのように」協力するのか? 

あなたのビジネスにとって『本当にキー(鍵)となる、不可欠な協力者』を見極め、戦略的なパートナーシップを築くための考え方を探っていきましょう。

かつては、できるだけ多くの工程を自社内で行う「自前主義」が美徳とされる時代もありました。

しかし、市場の変化が激しく、技術が高度化・複雑化する現代においては、自社だけのリソースや能力には限界があります。

そこで重要になるのが、社外の組織や個人と戦略的に連携するという考え方です。キーパートナー(KP)は、単なる「取引先」や「外注先」ではありません。

あなたのビジネスモデルを強化し、価値提案を実現し、競争優位性を築くために、なくてはならない重要な存在です。

キーパートナー(KP)を特定し、良好な関係を築くことには、あなたのビジネスにとって計り知れないメリットがあります。

BMCの「舞台裏」を考える上での核心的理由に沿って見てみましょう。

① 価値提案(VP)の実現力を高め、競争優位性を強化するため

自社にない専門知識、技術、ブランド、あるいは顧客へのアクセスなどをパートナーから得ることで、より魅力的で、他社には真似できない価値提案を創り出すことができます。(例:最新技術を持つ企業との提携)

パートナーとの連携によって、新しい市場への進出や、より複雑な顧客ニーズへの対応が可能になります。

② 事業運営を効率化し、自社の『強み』に集中するため

自社で行うよりも、パートナーに任せた方が効率的であったり、コストが安かったりする活動(例:物流、製造の一部、定型業務など)を委託することで、自社は最も得意な『キーアクティビティ』や『キーリソースの活用』に集中できます。

パートナーとの共同仕入れや共同開発などにより、規模の経済を働かせ、コストを削減することも可能です。

③ 事業の持続可能性を高め、変化への対応力を強化するため

特定のリソースや市場への依存リスクを、パートナーシップによって分散させることができます。(例:仕入先の複数化、複数の販売チャネル確保)

市場の変化や新しい技術の登場に対して、パートナーの知見や能力を借りることで、より迅速かつ柔軟に対応することが可能になります。(オープン・イノベーションの考え方)

戦略的なパートナーシップは、将来の成長に向けた新たな事業機会を生み出すきっかけにもなります。

このように、キーパートナーを戦略的に考えることは、単なる外部活用に留まらず、ビジネスモデル全体の強化、効率化、そして持続可能性に繋がる重要な活動なのです。

KP(主要パートナー)とは?
主要パートナーとは、独自の価値提案を実現するために必要な外部の協力者を指します。 企業は、主要パートナーと連携することで、自社だけでは実現できないリソースやノウハウを活用し、より効率的かつ戦略的にビジネスを展開することができます。


パートナーシップの主な動機(なぜ組むのか?

パートナーシップを検討する理由は下記の通りです。

      キーとなり得るパートナーは、どこにいるでしょうか? 以下のような視点がヒントになります。(全てに当てはめる必要はありません)

      ✅️価値提案(VP)起点:

      自社に不足するKRや、外部委託した方が良いKAを補ってくれる相手は? また、自社の競争戦略(例:効率性、製品革新)や業界KSFを満たす上で、外部の力が必要な部分は?

      ✅️リソース/アクティビティ(KR/KA)起点

      自社に不足するKRや、外部委託した方が良いKAを補ってくれる相手は?

      ✅️戦略的動機起点

      上記の動機(コスト削減、リスク低減、リソース獲得、価値共創)を満たす上で、重要な相手は? 特に、自社の戦略的ポジショニング(効率良い事業運営、顧客親密性と最適解の提供、最高の製品・サービスの継続的な提供)を強化したり、業界KSFをクリアしたりするために必要な連携は?

      ステップAで洗い出した候補について、以下の問いで「本当にキーか?」を絞り込みます。

      ✅️問いかけ①: その連携は『価値提案』に不可欠か?

      「もし、このパートナーとの連携が無かったとしたら、顧客への一番の約束である価値提案(VP)を果たせなくなるか? あるいは、提供できる価値が大幅に下がってしまいますか?

      ✅️問いかけ②: その連携は『自社の強み・差別化』に繋がるか?

      「このパートナー連携は、競争優位性の源泉となっていますか?(例:独占契約、特別な技術提供)」

      「自社だけでは得られない特別なリソースや能力を得られていますか?」

      「他社が簡単に真似できない関係性ですか?」

      ✅️問いかけ③: その連携は『安定的』で『代替困難』か?

      「このパートナーとの関係は、安定的で信頼できますか?」

      「もしこのパートナーを失ったら、代わりを見つけるのは容易ですか? 事業への影響は大きいですか?」

      (→依存リスクも考慮する)

      【考え方のヒント】

      やはり①と②を満たすパートナーが最重要候補です。③の安定性や代替困難性も、キーパートナーかどうかを見極める重要な要素です。

      【記述の仕方】

      特定できるなら具体的な企業名(バイネーム)で。未定なら必要なパートナーの『タイプ』を明確に記述。キーのみに絞る。

      ステップAの視点から候補を出し、ステップBの問いで評価するプロセスを見てみましょう。

      事例1:カフェ「Third Place」
      VP(例): 「心地よい第3の居場所」を提供するカフェ

      視点例:価値提案(VP)起点

      VP「高品質なコーヒー体験」に不可欠な協力者は?

      → 候補:「特定の高品質なコーヒー豆を供給してくれる『〇〇焙煎所』


      <判断(3つの問い)>

      ①不可欠か?→Yes (品質の核)

      ②強み・差別化か?→Yes (豆が特別なら)

      ③安定的・代替困難か?→Yes (同品質の豆が他になければ)。

      → 結論:キーパートナー有力候補

      事例2:パーソナル・トレーナー

      VP(例): 「科学的根拠に基づき、目標達成に寄り添うマンツーマン指導」を提供するトレーナー

      視点例:リソース/活動(KR/KA)起点

      自社にない「トレーニング場所(KR)」を補う協力者は?

      → 候補:「設備が良く利便性の高い『提携ジム』」


      <判断(3つの問い)>

      ①不可欠か?→Yes (場所がなければKAができない)

      ②強み・差別化か?→△ (ジム自体は普通でも、良い提携は利便性向上)

      ③安定的・代替困難か?→Yes (良好な関係なら)。

      → 結論:自前施設がないならキーパートナー

      事例3:手作り石鹸メーカー

      VP(例): 「天然素材の、肌に優しく心も満たす手作り石鹸」を提供するメーカー

      視点例:リソース/活動(KR/KA)起点

      VPの核となる「希少な原材料(KR)」を供給してくれる協力者は?

      → 候補:「その原材料の『特定の供給元(□□農園など)』」


      <判断(3つの問い)>

      ①不可欠か?→Yes (品質の源泉)

      ②強み・差別化か?→Yes (希少原料なら)

      ③安定的・代替困難か?→Yes (代替がなければ極めて重要)

      → 結論:キーパートナーの最有力候補

      【AI活用ヒント】

      「私のパーソナルトレーニング事業で、より専門的な栄養指導を提供するために提携すべきパートナーのタイプと、その候補を探す方法を教えてください。」

      特定したキーパートナーは、ビジネスモデルの中で他の要素とどのように連携するのでしょうか?

      キーリソース(KR)・キーアクティビティ(KA)との連携

      これが最も直接的な繋がりです。KPは、自社に不足しているKR(例:特殊な技術、設備、販路)を提供してくれたり、自社で行うよりも効率的・効果的なKA(例:製造、物流、専門的な開発)を担ってくれたりします。自社がどのKR・KAに集中し、何をKPに頼るかは、事業の根幹に関わる戦略的な判断です。

      価値提案(VP)との連携

      KPとの連携によって、自社だけでは実現できなかった、より高い価値提案が可能になることがあります。(例:有名デザイナー(KP)とのコラボによる限定商品(VP))

      コスト構造(CS)との連携(最終回テーマ候補)

      パートナーとの連携には、取引コストやマージンの支払いなどが発生します。

      一方で、アウトソーシングや共同仕入れなどでコストを削減できる場合もあります。KPの選択はコスト構造に直接影響します。

      チャネル(CH)・顧客との関係(CR)との連携

      販売代理店や小売店がKPとなる場合、彼らは重要な販売チャネル(CH)そのものです。また、特定のKPとの連携が、ブランドイメージ(CRの一部)向上に繋がることもあります。

      キーパートナーを考えることは、単に「誰と組むか」だけでなく、「自社のビジネスモデルの中で、外部との連携をどのように位置づけ、活用するか」という、自社の境界線(どこまでを自社で行い、どこからを外部に頼るか)を設計することでもあるのです。

      「どんな相手と組めば良いか分からない…」 「パートナーとの関係をどう築けば良いか…」 「自社だけでやるべきか、パートナーを探すべきか迷う…」

      外部との連携は、大きな可能性を秘めている一方で、リスクや難しさも伴います。Miraizでは、クライアント様が最適なキーパートナー戦略を描けるよう支援します。

      戦略的パートナーシップの必要性評価

      対話を通じて、クライアント様のビジネスモデルと目指す価値提案にとって、本当にキーとなるパートナー連携が必要か、どの領域で連携が有効かを客観的に評価します。

      パートナー候補の探索と評価

      必要なパートナーのタイプを明確にし、AIなども活用しながら候補を探索。連携によるメリット・デメリット、リスクなどを多角的に評価し、最適な相手を見つけるお手伝いをします。

      連携体制の設計

      パートナーとの役割分担、情報共有の方法、契約条件の検討など、良好で持続可能な協力関係を築くための具体的な体制づくりをサポートします。

      私たちは、クライアント様が外部の力を効果的に活用し、ビジネスを加速させるための戦略的なパートナーシップ構築を、伴走者としてサポートします。

      6. まとめと次回(第12回)予告

      今回は、価値創造の「舞台裏」の最後の要素であるキーパートナー(KP)について、その戦略的な重要性、パートナーシップの動機(特にオープン・イノベーション)、そして自社にとって『キー(最重要)』となる協力者を見極めるための実践的な考え方(候補を洗い出す視点と3つの問いかけ)を、事例を交えながら探求しました。

      これで、BMCの左側、価値創造のエンジンルーム(KR, KA, KP)の3つのブロック全ての設計図が描けましたね!

      さて、BMCの主要なブロックは、残すところあと一つ。ビジネス全体の「土台」とも言えるコスト構造です。

      次回はいよいよ事業構想を考える旅の最終回(予定)です!

      【第12回】「ビジネスの『土台』:コスト構造(CS)を理解し、利益を生む設計へ」

      これまでに設計した価値提案を実現し、収益を上げるために、どのようなコストが発生するのか?

      そのコスト構造をどう理解し、管理し、そして利益を生み出すビジネスモデルをどう設計するか? BMC最後のブロックを探求し、ビジネスモデル全体の経済的な側面を明らかにします。

      全てのブロックが埋まる瞬間です。価値ある未来図を、持続可能なビジネスとして完成させるための最終章、ぜひご期待ください!

      Empowering Your Vision, Building the Future.

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