どんなに華やかな表舞台も、それを支えるしっかりとした『舞台裏』がなければ成り立ちません。

素晴らしい価値提案も、それを生み出し、安定的に提供し続けるための「仕組み」や「力」がなければ、絵に描いた餅になってしまいます。

皆さんこんにちは!事業構想×生成AI活用アドバイザー(中小企業診断士)の津田です。

未来を描く羅針盤を手に入れる旅、第9回をお届けします。いよいよ佳境に入ってきました。

これまでの8回で、私たちはビジネスモデルキャンバス(BMC)の右半分、つまり顧客(CS)、価値提案(VP)、チャネル(CH)、顧客との関係(CR)という『表舞台(価値創造・提供側)と、それを経済的に支える収益の流れ(RS)を設計してきました。

Miraiz by Speranza Partner

これで、事業が「誰に」「どんな素晴らしい体験を」「どうやって届け」「どうやって燃料(収益)を得るか」という、外から見える姿がかなり明確になったはずです。

素晴らしい設計図が描けてきましたね!

今回からの3回でビジネスモデルキャンバスの左半分、ビジネスモデルの『舞台裏』であり、価値創造のエンジンルームとも言える3つのブロック、

「主要な資源 :キーリソース(Key Resources: KR)」

「主要な活動 :キーアクティビティ(Key Activities: KA)」

「主要な協力者:キーパートナー(Key Partners: KP)」

に焦点を当てます。ここからは主要資源をキーリソース、略してKRと呼びます。

「日々の業務で当たり前に使ったりやったりしていることを考えてどうするの?意味ある?」と思うかもしれません。

しかし、ここで敢えて「キー」となる要素を考えることには、あなたのビジネスを成功に導くための、非常に重要な理由があります。

【重要】なぜ『舞台裏』=KR(キーリソース)・KA(キーアクティビティ)・KP(キーパートナー)を考えるのか?(3つの核心的理由)

それは、単にBMC(ビジネスモデルキャンバス)のマスを埋めるためではありません。

これらを戦略的に考えることには、あなたのビジネスを成功に導く、特に重要な3つの理由があります。

① 価値提案(VP)を実現し、競争優位性を築くため

・アイデアを具体的な行動に繋げ、「本当にできるのか?」という実行可能性を高めます。

・「何が」自社を他社と差別化し、顧客に選ばれる理由となるのか、その強みと競争優位の源泉を明確にします。

② 事業運営を効率化し、資源を集中させるため

・限られたリソース(ヒト・モノ・カネ・時間)を、価値創造に最も貢献する『キー』となる要素に集中させ、無駄をなくします。

・「なぜ、どこにコストがかかるのか」というコスト構造の根拠を理解し、健全で効率的な運営の土台を築きます。

③ 日々の運営を確実なものにし、未来の変化に『備える』ため

・重要な活動(KA)や資源(KR)、パートナー(KP)を特定することで、『顧客に選ばれ、競争優位性を強化するために、日々の業務で特に力を入れるべきポイント』が明確になり、限られたリソースをどこに集中すべきか迷わなくなります。

・同時に、「もしこれらが失われたら?」というリスクを事前に把握し、対策を考えることができます。

・将来、事業を成長させたい時も、どこを強化・投資すべきかの判断がつきやすくなります。

今回のゴールは、これらの重要性を踏まえ、あなたのビジネスにおける価値提案にとって『本当にキー(鍵)となる、不可欠な要素』を、シンプルで実践的な方法で見極めることです。

まず、あなたの価値提案(VP)を実際に形にし、競争力を生み出す上で『なくてはならない』、あるいは『核(コア)となる』資産は何なのかを見極め、そこに資源を集中させるために主要資源(キーリソース)を考えます。

  • KR(キーリソース)とは?
    キーリソースとは、ビジネスモデルを機能させるために不可欠な戦略的資源であり、企業の競争力の源泉となるものです。 企業は、顧客に価値を提供し、顧客との関係を構築し、収益を生み出すために、最も重要な資源を特定し、最大限に活用することが成功の鍵となります。キーリソース(主要資源)は、ビジネスモデルによって異なりますが、一般的には以下の4つのカテゴリーに分類されます。
  • KRの4つのカテゴリーとは?
    主要資源には物理的資源と知的資源、人的資源、財務的資源の4つのカテゴリーに分類されます。

■物理的資源(Physical Resources)

ビジネスを行う上で必要な、目に見える「モノ」に関する資産です。

・工場、生産ライン、特殊な製造機械、品質検査装置など製造関連

・店舗物件、魅力的な内装や什器、POSシステム、サービス提供に必要な専門機器(例:美容室の最新機器、飲食店の厨房設備、カフェのエスプレッソマシン)など販売・サービス関連

・倉庫、配送センター、トラック・車両、独自の配送ネットワークなど物流関連

・自社サーバー、コンピュータネットワーク、オフィススペースなどIT・オフィス関連

・原材料や製品の在庫、土地など

製造業や大規模小売業、物流業のように、多額の設備投資が必要なビジネスでは、その物理的インフラ自体が参入障壁となり、主要資源(キーリソース)となることが多いです。

小売店や飲食店、特定のサービス業などで、顧客アクセスやブランドイメージにとって決定的に重要な「場所」(例:駅前一等地、景勝地にある施設)はキーリソースです。

他社にはない独自の価値(高品質、高効率、特殊加工など)を生み出すことができる、特別な機械や設備は、競争力の源泉となるキーリソースです。

一方で、一般的なオフィス家具や、標準的なパソコン、容易に代替可能な汎用設備などは、事業に必要であっても、それ自体が競争優位を生み出す「キー」リソースとは言えないケースが多いです。

■知的資源(Intellectual Resources)

ブランド、独自知識、特許、著作権、パートナーシップ、顧客データなど、形のない非物理的な資産です。

小規模なビジネスにおいても、目に見えない知的財産が成功の鍵を握ることは少なくありません。例えば、

・長年培ってきた独自の製造技術や調理レシピ、特別なノウハウ(例:地域で評判のパン屋さんのパン生地、特定の問題を解決するコンサルティング手法)

・特定の地域やコミュニティで築き上げた「〇〇のことなら、あの店(あの人)」といった評判や屋号への信頼(ローカルブランド)

・お得意様との深い信頼関係や、その繋がりを示す顧客リスト・情報

・独自に開発し、効果が実証されている研修プログラムや教材

・多くのファンやアクセスを集めるウェブサイトやSNSアカウント、そこで発信される質の高いコンテンツ

・取得した特許権や登録商標

などは、他社が簡単に真似できない、ビジネスの競争力の源泉です。

これらは物理的な資産以上に、顧客に選ばれる理由となり、安定した収益を生み出す大切な土台となり得る、重要なキーリソースです。

■人的資源(Human Resources)

ビジネスモデルの実行に必要な「ヒト」に関する資産です。ここで重要なのは、単なる従業員の数(頭数)ではなく、その質です。

特定のスキル、経験、創造性、人脈、あるいは組織文化全体を指すこともあります。

経営者自身の持つ経験や専門スキル、業界での人脈や信頼(特に個人事業主や小規模企業では最重要の資源であることが多いです)。

長年かけて培った職人技や、特定のニッチ分野に関する深い知識、センスあるデザイン能力を持つスタッフ
・顧客一人ひとりの心をつかみ、お店や会社の「顔」となっている看板スタッフの接客スキルや関係構築力

・あるいは、一人で複数の重要な役割をこなせる、替えのきかない番頭役のような従業員

・新しい価値を生み出す創造性や企画力、開発力

・少人数でもスムーズに連携できるチームワーク

・会社全体に浸透している「らしさ」を表す価値観・社風なども、重要な人的資産となり得ます。

・もちろん、事業に必要な特定の資格や許認可を持つ人材も含まれます。

特に、特定の分野における『高度な専門知識や熟練技能』、独自価値を生み出す『創造性や企画力』、顧客との『強い信頼関係を築く能力』、あるいは模倣困難な『組織文化やチームワーク』などが、価値提案の実現に不可欠であり、代替がきかない場合に、人材は決定的なキーリソースとなり得ます。

■財務的資源(Financial Resources)

事業の運営、投資、成長を支える「カネ」に関する資産や、それを調達・管理する能力を指します。

事業継続の血液とも言える重要な要素です。

・開業時の元手となる自己資金や、事業活動から生み出され蓄積された内部留保。

・日本政策金融公庫や地域の金融機関(信用金庫・信用組合など)からの借入金、あるいは必要な時に資金を引き出せる融資枠。これらを確保できる信用力も含まれます。

・国や自治体が提供する各種補助金・助成金(例:小規模事業者持続化補助金、ものづくり補助金、事業再構築補助金など)を申請し、獲得できる能力や実績。

・日々の事業運営を円滑にする安定したキャッシュフロー、またはそれを維持・改善するための優れた資金繰り管理能力

・(事業によっては)クラウドファンディングによる資金調達のノウハウや実績、エンジェル投資家からの出資なども考えられます。

特に、多額の初期投資が必要なビジネス(例:設備投資が大きい製造業や店舗開発)、売上発生までに時間がかかるスタートアップ、あるいは急成長を目指すフェーズにおいては、資金調達能力や財務基盤そのものが、事業の成否を分ける決定的なキーリソースとなり得ます。

たくさんの候補の中から「キー」となるリソースを洗い出し、絞り込むために、以下のステップで考えてみましょう。

ステップA:候補となるリソースを洗い出す『視点』 

まず、キーとなり得るリソースの候補を、様々な角度から洗い出してみましょう。

以下のような視点がヒントになります。(全てに当てはめる必要はありません)

① 価値提案(VP)起点

あなたのVP実現に絶対に必要な資源は?

② 自社の強み起点

第2回の「根・幹・枝」で考えた、自社ならではの資産・能力は?

③カテゴリー別

ヒト・モノ・カネ・情報の各カテゴリーで、特に重要なものは?

ステップB:『キー』かどうかを判断する(シンプルな3つの問いかけ) 

ステップAで洗い出した候補について、以下の問いで「本当にキーか?」を絞り込みます。

問いかけ①: それは『価値提案』に不可欠か?

✅️「もし、このリソース(資産・ノウハウ)が無かったとしたら、顧客への一番の約束である価値提案(VP)を果たせなくなるか? あるいは、提供できる価値が大幅に下がってしまいますか?

問いかけ②: それは『自社の強み・差別化』に繋がるか?

「このリソースは、顧客が他社ではなく『ウチ』を選んでくれる理由(競争優位性)の源泉となっていますか?」

✅️「自社ならではの『らしさ』や『得意なこと』を活かすものですか?」

✅️「それは、他社が簡単に真似できない、あるいは希少な要素ですか?」

✅️「そして、組織としてそれを最大限活かしきれていますか?

問いかけ③: それは『現実的』で『持続可能』か?

✅️「このリソースを獲得・維持し続けることは、コストやリスクの面で現実的ですか?」

✅️「特定の資源に過度に依存しすぎていませんか? もし失ったら、代替は可能ですか?」

【考え方のヒント】

これらの問いに、自信を持って「Yes」と答えられるものほど、「キー」である可能性が高いと言えます。

特に「問いかけ①:不可欠性」と「問いかけ②:強み・差別化」の両方を満たす要素は、あなたのビジネスモデルにとって最重要の「キー」候補です。

ステップAの視点から候補を出し、ステップBの問いで評価するプロセスを見てみましょう。

事例1:カフェ「Third Place」

視点例:価値提案(VP)起点

VP「心地よい第3の居場所」に不可欠な資源は? 」

候補:「店舗の立地・雰囲気(物理的資源)」


判断(3つの問い)>

①不可欠か?→Yes (VP基盤)

②強み・差別化か?→Yes (特別な立地・内装なら)

③現実的・持続可能か?→Yes (家賃コスト考慮)



→ 結論:キーリソースの有力候補
視点例:自社の強み起点

強み「バリスタの高い技術」を体現する資源は?」

候補:「特定のスキルを持つバリスタ(人的資源)」


<判断(3つの問い)

①不可欠か?→Yes (VP要素)

②強み・差別化か?→Yes (高スキルなら模倣困難)

③現実的・持続可能か?→Yes (採用・育成コスト/依存リスク考慮)


→ 結論:キーリソース有力候補

事例2:パーソナル・トレーナー

視点例:価値提案(VP)起点

VP「科学的で、あなたに寄り添う指導」に不可欠な資源は?

候補:「トレーナー自身の専門知識・スキル・実績(人的・知的資源)」


判断(3つの問い)

①不可欠か?→Yes (VP根幹)

②強み・差別化か?→Yes (専門性は希少)

③現実的・持続可能か?→Yes (自己投資必要)


→ 結論:最重要キーリソース

事例3:手作り石鹸メーカー

視点例:自社の強み起点

強み「独自製法」を体現する資源は? 

候補:「独自の石鹸レシピと製造ノウハウ(知的資産)」


判断(3つの問い)>

①不可欠か?→Yes (製品品質)

②強み・差別化か?→Yes (独自性)

③現実的・持続可能か?→Yes (保護・管理必要)


→ 結論:キーリソース有力候補

【AI活用ヒント】

 「私の[事業内容]のキーリソース候補[リスト]について、上記の3つの問いかけ(不可欠性、強み・差別化、現実性・持続可能性)の観点から、どれがキーリソースと言えそうか、評価のポイントを教えてください。」

とAIに相談してみる。

さて、自社にとってのキーリソースが見えてきたところで、それがビジネスモデルキャンバスの他の要素とどのように連携しているかを確認しましょう。

KRは決して孤立して存在するわけではありません。

■価値提案(VP)との連携

これが最も基本的な繋がりです。キーリソースは、顧客に約束した価値提案を実現するための直接的な源泉となります。独自のキーリソース(例:特別な技術、強いブランド)があれば、他社にはないユニークな価値提案を生み出すことができます。逆に言えば、実現したい価値提案に必要なキーリソースがなければ、そのVPは絵に描いた餅になってしまいます。

■顧客セグメント(CS)との連携

ターゲットとする顧客セグメントによって、求められる価値提案が異なり、その結果として必要となるキーリソースも変わってくることがあります。例えば、富裕層向けのサービスであれば、高品質な物理的資産や高度な専門知識を持つ人材がキーリソースになるかもしれません。

■チャネル(CH)・顧客との関係(CR)との連携

特定のキーリソースが、特定のチャネルや顧客関係を可能にすることがあります。例えば、駅前一等地の店舗(KR)があるからこそ、多くの顧客がアクセスしやすいチャネル(CH)が実現できます。高いスキルを持つスタッフ(KR)がいるからこそ、手厚い人的サポート(CR)が可能になります。

■キーアクティビティ(KA)との連携(次回解説)

キーリソースは、キーアクティビティ(主要な活動)を通じて活用されて初めて価値を生みます。 どんなに優れた資源も、それを活かす活動が伴わなければ宝の持ち腐れです。(例:優れたレシピ(KR)も、それに基づき高品質に製造する活動(KA)が必要)。

■キーパートナー(KP)との連携(次々回解説)

自社に不足しているキーリソースを、キーパートナーから補ったり、共同で活用したりすることもあります。(例:自社にない特殊な設備(KR)を、提携工場(KP)で利用させてもらう)。

■コスト構造(CS)との連携(最終回テーマ候補)

キーリソースを獲得・維持するためにはコストが発生します。 特に、希少で模倣困難なキーリソースは高コストになる傾向があります。キーリソースの選択は、ビジネス全体のコスト構造に大きな影響を与えます。

このように、キーリソースはビジネスモデル全体の様々な要素と連携し、価値創造の基盤を形成しています。BMCを俯瞰して、特定したキーリソースが他の要素としっかり噛み合っているかを確認することが重要です。

「自社のキーリソースが何なのか、客観的に見極めるのは難しい…」 「洗い出した候補の中で、どれが本当に『キー』なのか判断できない…」

そう感じられる方もいらっしゃるかもしれません。

私たちMiraizは、そのような課題をお持ちのクライアント様を、対話とAI分析を通じてサポートします。

  • 客観的な視点の提供: 事業内容、価値提案、強みなどを丁寧にお伺いし、私たちが持つ知見やAIによる市場分析・競合分析の結果も踏まえながら、客観的な視点からキーリソース候補の洗い出しと評価をお手伝いします。
  • 『キー』の見極め支援: 「価値提案への不可欠性」「強み・差別化への貢献度」「持続可能性・リスク」といった観点から、洗い出したリソース候補を一緒に吟味し、本当に重要な「キーリソース」を特定するプロセスをファシリテートします。
  • BMC全体との整合性: 特定したキーリソースが、価値提案や他のビジネスモデル要素と整合性が取れているか、持続可能なモデルとなっているかを検証し、可視化します。

私たちは、クライアント様自身も気づいていないような隠れた資産(特に知的資産や人的資産)を発見し、それをビジネスの競争力に繋げるお手伝いをすることを得意としています。

今回は、価値創造の「舞台裏」の最初の要素であるキーリソース(KR)について、その重要性、4つのカテゴリー、そして自社にとって本当に『キー』となる資産を見極めるための実践的な考え方(候補の洗い出し視点と3つの問いかけ)を、事例を交えながら探求しました。

あなたのビジネスを支える、代替がきかない、競争力の源泉となる「譲れない資産」は何でしょうか?

ぜひ、今回の内容を参考に、ご自身のキーリソースについて考えてみてください。

さて、重要な資産(リソース)が分かったら、次は「そのリソースをどう活用して価値を生み出すか?」という『活動(アクティビティ)』に焦点を当てる番です。

次回、【第10回】では、ビジネスモデルのエンジンルームの2つ目の要素、「キーアクティビティ(Key Activities: KA)」について解説します。価値提案を実現するために、日々必ず行わなければならない、最も重要な活動とは何か? それをどう見極めるのか? 一緒に探っていきましょう。

Empowering Your Vision, Building the Future.

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