皆さんこんにちは。千葉県松戸市の中小企業診断士の津田淳です。

皆さんは、知的資産経営について耳にしたことはありますでしょうか?

2005年に経済産業省が知的資産経営の開示ガイドライン公表したものに基づきます。そこには下記のようなことが記載されています。

1.知的資産経営の重要性

知の時代が本格化する中、企業が持続的に発展していくためには、差別化を継続することが極めて重要であるが、その源泉として、人材、技術、組織力、 顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えにくい知的資産を活用した他者が真似することのできない経営のやり方がますます重要になってきている。 知的資産は、それぞれの企業に固有のものであり、また、それを組合せて活 用するやり方が価値を生む力となるものであって、そのやり方を他社が単純に 模倣することが困難である。経営者は、この点にこれまで以上に着目し、まずは自社の持つ強みや価値の作り方、それらの源泉となっている知的資産を認識し、自らの経営のあり方を経営者の目で再確認し、それらを最大限に活用した経営(「知的資産経営」)を実践していくことが重要である。 

https://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/pdf/2-guideline-jpn.pdf

つまり、知的資産経営を一言でいうと「顧客に選ばれ喜ばれる価値に直結する「見えざる強み」とそれを生み出す源泉を把握し活用・強化し経営に活かしていくことです。」

知的資産経営の何が良いかといえば、

「従業員のモチベーションが高まり、自主性が生まれ、会社の一体感が高まり活気が出る」ことです。

従業員の立場からすれば、顧客から選ばれて、喜ばれる「価値」が何なのか。

自分の日々の仕事がどういった会社の強みにつながっているのかが分かる。

だから自分が何をすればよいのかが理解できます。

そしてその価値というのは自分だけではなく、外部の協力者、仕入先、他部署、総務や経理といったバックオフィス部門含め皆で作り出しているんだということに気がつける訳です。

普段あたり前にやっていることが、実はとても重要な活動であって、競争力に直結していて、顧客提供価値となっていると認識出来ることというのは大切です。

私の経験だと、中小企業にはこの当たり前に出来ていることが「強み」であることが多く、それが認識されていない事がほとんどです。

私がかつて支援に関わったA社では、知的資産経営報告書の概要版である「事業価値を高める経営レポート」作成に、後継者のBさんと右腕となる従業員で取り組みました。

当時後継者のBさんは事業承継するタイミングで会社の経営について学んでいたときでした。従業員を信頼できないのでいつも自分が現場に立ってしまうと悩みを打ち明けてくれました。

そこで、会社が提供する価値を理解し、それを作り出す会社の仕組みを理解するという考え方で自社を見つめ直す事、従業員と一緒に取り組むことで従業員との信頼関係、同じ方向性を共有できるなどのメリットが有ることから、知的資産経営を勧めてみました。するとすぐに、やってみたいとのことになりました。

やってみると大変盛り上がりました。

これまで会社の経営全体から強みや弱み、提供価値や他社との差別化などについて従業員と一緒に考える機会がなかったことから一緒に取り組んだことで、それぞれの目線で理解している強み、顧客への提供価値などがあり、気づきが多くあったということでした。

この取り組みを通じて自主的な変化が生まれました。売り場にも創意工夫がみられるようになり活気が出てきました。

もうそれから10年近く経過します。A社では本格的に知的資産経営報告書の作成も実施し、今では会社ホームページに素敵なデザインの冊子にして掲示しています。当社の従業員、取引先、顧客など多くの人に共感を得る事ができるものとなっています。

A社はその後、ブランドコンセプトを体現した立派なお店へと発展を続けています。

私はこのように、知的資産経営の実践による会社の活性化と情報開示は企業経営にとって有意義なものであると認識しています。この知的資産経営が言われ始めたのはもう20年前ですが今でも本質だと考えています。

「会社の価値創造の根源は所属する一人ひとり」ということが分かることで、会社らしさを存分に発揮した他では真似ができない価値ある会社になることが出来ると思っています。

この価値は顧客だけではなく、従業員やその家族、仕入先やパートナー、金融機関や地域の行政機関、近隣の住民など広範囲に影響することでしょう。少子化時代、従業員の家族に対してどんな価値(喜び)がある会社なのか説明できる事も重要です。

ここからは知的資産経営について説明します。

1.知的資産経営とは

知的資産経営は企業の無形の経営資源である「知的資産」(組織内部や個人が持つ知識や情報)を認識し、適切に評価し、活用することで、収益につなげる経営手法のことです。

知的資産とは人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド、経営理念などの目に見えない資産のことをいいます。これらは企業の競争力の源泉となります。知的財産権や知的財産を含む総称する幅広い考え方になります。

・知的財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権など)

・知的財産(ブランド、営業秘密、ノウハウ)

2.知的資産経営報告書とは

知的資産経営報告書とは、企業が持つ知的資産をどのように活用しているかを体系的に説明し、その情報をステークホルダーに開示するための文書です。

知的資産経営報告書を作成・開示することで、企業は自社の無形の強みを明確にし、それを効果的にステークホルダーにアピールできます。また経営の透明性を高め、ステークホルダーからの信頼を得ることにも繋がります。 将来に向けた価値創造ストーリーを示すことは、企業の持続的成長への期待を高め、企業価値の向上に資するものと言えます。

・企業が保有する知的資産を可視化し、その価値を内外のステークホルダーに伝えるツール

・企業の現在の価値だけでなく、将来の価値創造に向けた活動や戦略を示すことで、企業の持続的な成長可能性を説明するツール

・企業と株主・投資家等のステークホルダーとの対話を促進し、相互理解を深めるコミュニケーションツール

・経営者自身が自社の強みと課題を再認識し、経営の質を高めるための自己分析のツール

3.知的資産経営報告書の内容とは

知的資産経営の開示ガイドラインには下記のように記載させれています。

2. 基本的な原則 知的資産経営報告は、企業がその活動の実態を自らステークホルダーに訴え るものであるので、各企業が、それぞれのやり方で、それぞれの伝えたい内容を示していくものであるので、内容形式ともまちまちである。しかしながら、 第1章で述べた趣旨及び1.の目的を達成するため、次のような共通的な原則 を満たすものであることが望ましい。

① 経営者の目から見た経営の全体像をストーリーとして示す。

② 企業の価値に影響を与える将来的な価値創造に焦点を当てる。

③ 将来の価値創造の前提として、今後の不確実性(リスク・チャンス)を中立的に評価し、それへの対応につき説明する。

④ 株主のみではなく自らが重要と認識するステークホルダー(従業員、取引先、 債権者、地域社会等)にとって理解しやすいものとする。

⑤ 財務情報を補足し、かつ、それとの矛盾はないものとする。

⑥ 信憑性を高めるため、ストーリーのポイントとなる部分に関し、裏付けとなる重要な指標(KPI)などを示す。また、内部管理の状況についても説明することが望ましい。

⑦ 時系列的な比較可能性を持つものとする。(例えば KPI は過去2年分につい ても示す。)

⑧ 事業活動の実態に合わせ、原則として連結ベースで説明する。 

https://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/pdf/2-guideline-jpn.pdf

4.知的資産経営の実践方法とは

知的資産経営の実践のためのステップについては下記のとおりです。

(1)何を洗い出すか?

企業における競争力の源泉である、人材、技術、技能、知的財産(特許・ブランド等)、組織力、経営理念、顧客とのネットワーク等、財務諸表には表われてこない目に見えにくい 経営資源

https://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/pdf/00all.pdf -6ページ-

例えば以下のようなものも含まれます。

■製造段階での「すりあわせ」に代表される製品の細部へのこだわり/技術・ノウハウ

■顧客との意思疎通による問題解決型の商品/サービスの開発スピードの速さとそれを可能にする組織/システム(取引先の側からの次世代商品のリクエストを含む)

■レベルの高い要求のフィードバックを可能にするレベルの高い消費者の存在と消費者 と企業の結びつき(質の高いネットワーク

品質や中長期的な安定的存在感、中期的な取引関係等に基づく信頼に裏打ちされた商品/サービス/企業のブランド力

レベルの高い従業員モチベーションの維持/能力の発揮及びそれを可能にしてきた 雇用・組織関連のシステム

技能者の裾野の広さに支えられた知的創造の能力

ただし、以下に留意が必要です。

知的資産は企業価値を生み出す源泉であるが多くの場合、①それ自体に交換価値 があるわけではないこと、②独立して売買可能ではないこと、③知的資産のすべてをその 企業が必ずしも所有・支配しているとはいえないことに留意が必要

https://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/pdf/00all.pdf -6ページ-

(2)知的資産の分類

知的資産の多くは個別に価値を生み出すものではなく、たの知的資産と結びつき、活用・管理することで価値を生み出すものです。分類することに決定的な意味はありませんが、体系的な整理ができる、報告書を見る人も分かりやすい、そして人に説明しやすいので分類を知っていると便利です。

①人的資産:従業員が退職時に一緒に持ち出す資産

例)イノベーション能力、想像力、ノウハウ、経験、柔軟性、学習能力、モチベーション等

②構造資産:従業員の退職時に企業内に残留する資産

例)組織の柔軟性、データベース、文化、システム、手続き、文書サービス等

③関係資産:企業の対外的関係に付随したすべての資産

例)イメージ、顧客ロイヤリティ、顧客満足度、供給業者との関係、金融機関への交渉力等

(3)自社の強みを認識する(知的資産の棚卸し)

①過去実績の確認

過去から現在までの経営理念、方針、戦略を確認し、これに基づく投資実績、業績を確認しながら、企業の強みの源泉となる知的資産を洗い出します。

ちなみに、強みとは企業が持つ独自の資源や能力のうち、競合他社と比較して優位性を持つもの。顧客に価値を提供し、競争優位を確立するために活用できる要素。企業の知的資産のうち、特に競争力の源泉となるものです、

ただし、知的資産経営の中では有形の財産(バランスシート上に表せるもの)は除いて考えます。建物のデザインや立地がブランドイメージの形成に貢献している、特殊な機械や設備と従業員のノウハウが競争優位性の源泉である場合、特別な資産が企業独自の価値創造に不可欠の場合は知的資産の一部として考えることもできます。

②自社の強みや弱みの確認

「過去~現在」までの経営状況や知的資産を把握した上で、SWOT分析等のツール を利用し、自社の強み・弱み、収益の機会・脅威について整理、把握します。

強みや弱みというのは事業環境、競争環境の変化によっても変わってきます。現在までの強み(知的資産の組み合わせ)と将来に向けた強み(知的資産の組み合わせ)は変わってくるでしょう。

③SWOT分析

重要なことは「強み」と思っていたことが競合がより有利となっていて「弱み」と変化するリスクがあることです。知的資産として認識されず陳腐化したり、維持管理の努力が不十分であったりするからです。

そのためにも自らの強みの源泉となっている知的資 産を的確に認識・評価すると共に、それに対する脅威と脆弱性の分析(リスク分析)を 行うことが、第一歩となります。

SWOT分析は自社の内部で実施することとなりますが、知的資産経営報告書を開示する対象となるステークホルダーが自社をどう見えているかといった視点が重要です。そのため開示対象先や第三者からのヒアリングも効果的です。

SWOT分析を行ったらクロスSWOT分析で経営課題を考えたいです。

さらにクロスSWOT分析により経営課題を「強みを生かしチャ ンスをものにする方法」、「弱みを克服しチャン スを逃さないようにする方法」、「弱みを活かし、 脅威の影響を受けないようにする方法」、「弱み を克服し、脅威の影響を受けないようにする方 法」の4つに分けることで、今後の取るべき戦 略を明確にし、経営者の頭の整理を行うといっ た効果がある。加えて、社内幹部や重要なステ ークホルダーと共有化することで、方向性を認 識してもらう効果もある。 

https://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/pdf/00all.pdf -56ページ-

長くなってしまうので今回のブログはここで終了とします。次回はストーリー化について説明します。

カテゴリー: 事業計画