皆さんこんにちは。デジタルツール・生成AI活用アドバイザーの津田淳(中小企業診断士)です。
私は創業支援に関わっていたことがあり、年間数百件の創業計画書をチェックしていた経験があります。その中で、「競合」についてなかなか洗い出すのが難しいという問題によく直面しました。
新しい独自の商品やサービスを始めようとする場合、「競合はいない」ということで、他と比較をしない事業計画が多いです。これまでにないことをやろうとしている場合、競合は存在しないと考えるのも無理はありません。
しかし、世の中に全く存在しないもので、代わりが無くて困るような商品やサービスというのはそうそうあるものではありません。そのため、必ず競合がいると捉えて、その違いを明確化し、強みや優位性を元に選ばれるための戦略を考える必要があります。
そこで商品・サービスの競争力を高めるための競合分析について考えてみたいと思います。
競合を考えるメリット
競合を考える主な理由は、自社のビジネス環境を正確に把握し、効果的な戦略を立てるためです。
(1)市場理解の深化 競合他社の動向や戦略を分析することで、市場全体のトレンドや顧客のニーズをより深く理解できます。 (2)差別化ポイントの明確化 競合との比較を通じて、自社の強みや独自性を明確にし、差別化戦略を構築できます。 (3)リスクの予測と軽減 競合の存在を認識することで、潜在的なリスクや障害を事前に把握し、適切な対策を講じることができます。 (4)顧客価値の向上 競合他社が提供する価値と比較することで、自社の商品やサービスをより顧客志向に改善できます。 (5)協業の機会発見 競合分析を通じて、協業やパートナーシップの可能性を見出し、お互いの強みを活かすことができます。 上記のように競合を考えないと市場での立ち位置を見誤り、ビジネスの成功確率を下げてしまう恐れがあります。
競合の分類
a.直接的な競合(Direct Competitors)
直接的な競合とは、自社と同じまたは非常に類似した製品やサービスを提供し、同じ顧客層をターゲットにしている企業やビジネスを指します。同じ市場での直接的なライバルとして、商品の機能、品質、価格などで競い合う関係にあります。
<具体例>
コーヒーショップ業界:スターバックスに対して、タリーズコーヒー、ドトールコーヒー (同じ「カフェ」という業態で、類似のメニューやサービスを提供)
スポーツジム業界:ティップネスに対して、コナミスポーツ、ルネサンス (同じ「フィットネス施設」として、類似の設備やプログラムを提供)
スマートフォン業界:iPhoneに対して、Galaxy、Xperia (同じ「スマートフォン」という製品カテゴリーで、類似の機能を提供)
b.間接的な競合(Indirect Competitors)
間接的な競合とは、異なる製品やサービスを提供しているものの、同じ顧客層の時間やお金を奪い合う企業やビジネスを指します。必ずしも同じニーズを満たすわけではありませんが、顧客の限られたリソースを取り合う関係にあります。
<具体例>
エンターテインメント業界:映画館に対して、テーマパーク、ボウリング場、カラオケ店 (同じ「娯楽」市場で、顧客の余暇時間とお金を奪い合う)
飲食業界:ファミリーレストランに対して、ショッピングモール、遊園地 (週末の家族の外出先として競合)
教育業界:英会話スクールに対して、スポーツジム、習い事教室 (平日夜の時間の使い方として競合)
c.代替品の競合(Substitute Competitors)
代替品とは、全く異なる方法や技術で、同じ機能やニーズを満たす製品やサービスを指します。既存の製品やサービスと同じ目的を達成できる、別の選択肢として存在するものです。
例えば、映画館で映画を観る場合を考えてみましょう。映画館の代替品として、DVDレンタルや動画配信サービスが挙げられます。これらは「映画を観る」という同じニーズを満たしますが、その方法や技術は映画館とは全く異なります。
他の例として、紙の書籍と電子書籍の関係も代表的な代替品の例です。両者は「本を読む」という同じニーズを満たしますが、提供方法は大きく異なります。電子書籍は、従来の紙の書籍とは全く異なる技術を用いて、同じ「読書」というニーズを満たしているのです。
<具体例>
金融業界:従来の銀行窓口サービスに対して、インターネットバンキングやモバイル決済アプリ(PayPay、LINE Payなど)
エンターテイメント業界:ライブコンサートに対して、オンラインライブ配信やバーチャルコンサート(メタバース空間でのイベントなど)
教育業界:従来の対面式学習塾に対して、オンライン教育プラットフォーム(Udemy、Coursera、オンライン家庭教師など)
※本質的な価値とは商品やサービスを選ぶ根本的な理由であり革新的な利益や解決策。その商品やサービスがなければ顧客がどのような問題に直面するか、どのような欲求が満たされないのか考える事で明らかになります。
d.協調関係(Coopetition)の可能性
協調関係とは、競合しながらも特定の分野で協力し、お互いの利益を最大化する関係を指します。これは「競争」と「協力」を組み合わせた戦略であり、市場全体の成長や新たな価値創造を目指すものです。
<具体例>
(1)共同イベントの開催
近隣の小規模店舗や個人事業主が集まり、共同でイベントを開催することで、集客力を高めます。
例: 地元のカフェとベーカリーが協力して「週末マーケット」を開催し、互いの顧客を紹介し合うことで新規顧客の獲得につなげる。
(2)リソースの共有
小規模事業者同士で設備やスペース、専門知識を共有し、コストを削減します。
例: フリーランスのデザイナーとウェブ開発者が共同でオフィススペースを利用し、クライアントへの提案力を強化する。
(3)共同プロモーションの実施
異なる業種の小規模事業者が協力してプロモーション活動を行い、相互にブランド認知を高めます。
例: 地元のヨガスタジオと健康食品店が共同で「健康フェア」を開催し、参加者に特別割引やサンプルを提供する。
(4)ノウハウの共有と相互支援
経験や知識を共有することで、互いのビジネススキルを向上させます。
例: 小規模な美容室オーナー同士が定期的にミーティングを行い、最新の美容技術やマーケティング戦略について情報交換する。
(5)共同商品・サービスの開発
異なる専門分野の事業者が協力して新しい商品やサービスを開発し、相互に提供します。
例: 地元のアーティストと雑貨店がコラボレーションし、限定デザインの雑貨を共同で販売する。
お互いの強みや狙いが分かれば協力することも可能となります。例えば、リソースを共有することで、開発コストや時間を節約できます。また、協力することで、各社の顧客基盤を活用し、新たな市場セグメントにアプローチできます。そして、異なる視点や専門知識を持つ企業同士が協力することで、革新的な製品やサービスが生まれやすくなります。
競合は次の4つの要素に分解すると考えやすくなります。
「①顧客(誰に提供するか)」✖️「②問題・課題・状況(どのような問題を解決するか)」✖️「③方法(どのように解決するか)」✖️「④メリット、嬉しさ、喜び(顧客が得られる価値や利益)」
顧客が感じる問題点。その問題がある理由とは、元々目的があって、それを阻むから問題だと考えられます。
そう考えたとき、その目的であれば、別の方法で解決してしまう提案もあり得ます。
前述しましたがそれが代替品となります。最近だと生成AIによって代替されてしまう商品・サービスも考えられます。
<競合を考えるステップ>
(1)顧客ニーズの理解
顧客のニーズを深く掘り下げることで、競合他社との差別化ポイントや顧客に提供すべき価値が明確になります。例えば、コーヒーショップの場合、「コーヒーを飲む」という表面的な行動の背景には、「くつろぎ」「仕事場所の確保」「友人との交流」といった本質的なニーズが存在します。
<質問>
・顧客はどのような感情や状況で自社の製品やサービスを求めるのか?
・顧客が自社の製品・サービスを選ぶ際に、最も重視するポイントは何か?
・どのような要因が顧客の満足度を高め、リピーターとなる可能性があるか?
<方法>
・ペルソナ作成:顧客の属性や行動特性をもとに、顧客ペルソナ(代表的な顧客像)を作成し、ニーズや価値観を具体化します。
・フィードバック収集:過去の顧客からのフィードバックやレビューを分析し、顧客が特に評価している点と改善を求めている点を洗い出します。
・インサイト分析:アンケートの自由回答やSNSの投稿を集め、顧客が自身の言葉で表現しているニーズや期待を探ります。
(2)直接的な競合を見る
直接競合とは同じカテゴリーの商品やサービスを提供している企業です。ここでは、競合の強みや弱みを把握し、どのような点で自社と異なるかを明確にします。コーヒーショップの例であれば、同じ地域にある他のコーヒーショップが該当します。
<質問>
・競合が提供している商品の強みや特徴は何か?顧客にどのように認識されているか?
・競合がどのような価格設定やプロモーションを行っているか?それは顧客にとって適正と感じられているか?
・競合が提供しているサービスや体験で、特に顧客に評価されている点は何か?
<方法>
・オンラインレビューの比較:競合商品のレビューを読み、自社との違いを明確にします。特に高評価・低評価の内容に注目し、差別化ポイントを探ります。
・価格と付加価値のマッピング:競合と自社の価格と提供価値をマッピングし、顧客にとってのコストパフォーマンスを分析します。
・顧客体験のシミュレーション:競合のサービスを実際に体験し、顧客の立場から感じる特徴や満足度を評価します。
(3)間接的な競合を探す
間接競合とは、異なるカテゴリーの商品・サービスでありながら、同じ顧客層のニーズを満たす企業のことです。コーヒーショップであれば、くつろぎや仕事場所を提供するファストフード店や、読書スペースのある書店が該当します。これにより、顧客が持つ選択肢の幅を把握し、間接競合が提供するメリットを確認します。
<質問>
・自社の顧客層が他にどのような選択肢(異業種含む)を利用しているか?
・顧客が間接競合の商品やサービスを選ぶ理由は何か?
・間接競合が提供する価値は、どのように顧客の期待に応えているか?
<方法>
・ライフスタイル分析:ターゲット顧客が自社以外のどのようなサービスに時間を使っているかを把握し、間接競合の特定に役立てます。
・サービス特性の比較:間接競合が提供する価値や顧客が得られる体験を、自社のサービスと比較します。特に時間、費用、満足度といった観点で比較すると効果的です。
・消費パターンの調査:同じ顧客層がどのように他の業種のサービスを利用しているかを調査し、消費パターンの違いを明確にします。
(4)代替品を確認する
代替品とは、同じニーズを異なる方法で満たす製品やサービスです。コーヒーショップの例であれば、自宅でコーヒーを飲むためのコーヒーメーカーや、オフィスのフリースペースが該当します。この段階では、代替手段の調査を通じて、顧客がどのように同じ目的を達成しているかを理解します。
<質問>
・顧客が同じ目的を達成するために、どのような別の手段を利用しているか?
・代替手段が提供するメリットや特徴は何か?それにより顧客はどのような利便性を得ているか?
・代替品としての選択肢が、顧客にとってどの程度の満足度を提供しているか?
<方法>
・新技術のリサーチ:業界外の最新技術やサービスの進展を追跡し、顧客ニーズを満たし得る代替品の存在を確認します。
・顧客アンケート:自社商品やサービスの代わりに利用されている手段について、顧客にアンケートを実施して理解を深めます。
・代替品のトライアル:競合する代替品を実際に体験し、顧客が得る利便性や満足度を把握します。
(5)市場全体を把握する
最後に、市場全体の動向や成長性、将来のリスクと機会を把握し、自社がどのように競争環境に適応すべきかを明確にします。これまでの分析結果を総合し、業界の動向、顧客の行動変化、競合の動きに応じた戦略を設計します。
<質問>
・現在の市場規模や成長傾向はどのように変化しているか?市場が拡大している分野や縮小している分野はどこか?
・業界で注目されているトレンドや技術革新は何か?将来的な影響が予測される要因は?
・新規参入者や代替品の台頭により、顧客の購買行動や期待に変化が出ているか?
<方法>
・市場レポートの調査:最新の市場レポートや業界団体の資料を入手し、業界全体の動向や成長予測を確認します。
・競合動向の監視:業界ニュースや競合のプレスリリースを定期的にチェックし、新たな参入者や市場シェアの変化を把握します。
・トレンド分析:消費者の価値観やニーズがどのように変化しているか、業界トレンドを追跡して分析し、予測を立てます。
これらの競合については、プロンプトを用いて生成AI(ChatGPTやPerplexity)で調べてしまう方法もあります。下記の例を参考にしてみてください。
<競合を洗い出すプロンプト例>
【ビジネス概要】 - ビジネス名称:[名称] - 業界:[業界名] - 事業内容:[具体的な事業の説明] 【提供価値】 - ターゲット顧客:[具体的な顧客層の定義] - 顧客の課題:[顧客が抱える具体的な問題や悩み] - 解決方法:[提供する製品・サービスの具体的な内容] - 期待される成果:[顧客が得られる具体的なメリット] - 価格帯:[想定される価格帯] 【分析依頼】 上記の情報を基に、以下の3つのカテゴリーで競合を分析してください: 1. **直接的な競合** - 同じ製品・サービスを提供し、同じ顧客層をターゲットとする企業 - 分析項目:企業名、主力商品、価格帯、強み・特徴、市場での位置づけ 2. **間接的な競合** - 同じ顧客層の時間やお金を奪い合う異なる製品・サービスを提供する企業 - 分析項目:企業名、提供内容、価格帯、当社との競合ポイント 3. **代替品の競合** - 異なる方法で同じニーズを満たす製品・サービスを提供する企業 - 分析項目:製品・サービス名、提供手段、価格帯、特徴的な優位性 【分析の観点】 各カテゴリーについて、以下の点も含めて分析してください: - 市場での強み・弱み - 価格戦略 - 主要な差別化ポイント - 顧客評価(わかる範囲で) 【アウトプット形式】 1. 各カテゴリーごとの競合一覧(表形式) 2. 主な競合との比較分析 3. 考えられる対応策の提案
まとめ
重要な事は顧客の視点で自社の特徴や価値を見つめ、それを顧客にどのように理解してもらうかを言語化する事です。
そのために、競合を洗い出したら、自社と競合を比較して自社のポジショニング(顧客から見た時の違い)や差別化戦略(違いを作り、分かってもらい、選んでもらう方法)を検討して、必要なアクションプランを策定する事が重要です。
顧客に「他の製品やサービスではなく自社の製品・サービスを選びたい」と感じてもらうために、ターゲット顧客にとって自社の強み、他にはないメリットを明確に打ち出します。
よかったらご参考ください。
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